皆さんこんにちは、理学療法士で
専門学校教員のダイ吉です。
理学療法士として臨床に出ると、高確率で人工股関節の患者さんを担当しますよね。
実習でも、変形性股関節症や、頸部骨折の方がケースになる確率は高めだと思います。
次、整形外科で実習なんだよね。
もしかしたら担当するかもね。
人工股関節のリハビリでは、屈曲・内転・内旋のような禁忌肢位を指導します。
当然、授業で習ったと思いますが、なぜこの複合運動が脱臼のリスクを高めるか、深く考えたことがありますか?
そこで今日は、運動学の知識をおさらいしながら、人工股関節が脱臼するメカニズムについて解説していきたいと思います。
人工股関節の種類
人工股関節は、大きく分けて2種類です。
人工骨頭置換術
大腿骨頭だけを、金属に置換します。
適応は主に頸部骨折などで、ステムと呼ばれる金属を大腿骨に埋め込みます。
臨床では、BHA(Bipolar Hip Arthroplasty)と略して使われていますね。
骨頭だけ交換する手術だよ。
人工股関節全置換術
こちらは、骨頭も臼蓋も金属に置換するので、股関節全体を交換する大手術になります。
適応は、主に変形性股関節症。
臨床での呼び方は、以下のどちらか。
THA(Total Hip Arthroplasty)
THR(Total Hip Replacement)
内容は、2つとも同じです。
股関節の全部を交換するよ。
BHAとTHAは違う手術ですが、どちらもしゃがんだり床に座るといった、和式の生活スタイルが難しくなるという共通点があります。
屈曲・内転・内旋による脱臼
後方アプローチにて人工股関節を手術すると、屈曲・内転・内旋の複合運動が禁忌肢位となります。
あ、知ってる。
脱臼しちゃうんでしょ?
そうそう。
何で脱臼すると思う?
え、分からないけど…。
屈曲・内転・内旋がダメなのは、授業で習ったので覚えていると思います。
しかし、なぜこの複合運動がダメなのか…、理由は3つあります。
皆さんはパッと答えられますか?
屈曲がダメな理由
構造を確認すると、股関節の前面には、人体で最強の腸骨大腿靭帯があります。
腸骨大腿靭帯は、坐骨大腿靭帯・恥骨大腿靭帯と協力して、股関節の伸展を制御する役割を持ちます。
股関節屈曲の125°に対し、伸展は15°しか可動しないのも、これらの靭帯がエンドフィールになっているからなんですね。
で、なんで屈曲はダメなの?
前面に付いている靭帯は、
屈曲すると緩んでしまうんだ。
ジーパンを履いた状態でしゃがむと、股関節のあたりにシワができますよね?
それと一緒で、股関節を屈曲させることで靭帯が緩み、その結果、関節の適合は不安定になってしまうのです。
これが1つめの理由。
内転がダメな理由
股関節は臼状関節で、臼蓋が大腿骨頭に覆いかぶさっている状態でしたね。
しかし、浅いんですよね…。
そのため、中間位でも適合が不十分。
さらに、そこから内転運動をすると…、
簡単に亜脱臼位となってしまうのです。
でも、反対に股関節を外転させると、
股関節の適合性が向上するので安定します。
もし、屈曲して股関節が
緩んだ状態で内転したら?
うわ~、考えただけで怖いね…。
これが2つ目の理由です。
内旋がダメな理由
後方プローチで置換術を行うと、後面の関節包は切開されてしまいます。
股関節を内旋させると、骨頭は回旋して後ろを向くため、もし関節包が破れていれば、そこから脱臼してしまうのです。
これが3つ目の理由です。
でも、昔ドクターに質問したところ、しっかりと縫合されていれば、関節包の強度に関しては、それほど気にしなくていいそうです。
術後のリハでは、しっかりと
情報収集しておこう!
過屈曲による脱臼
プク太くん。まだ禁忌肢位が
あるんだけど知ってる?
うん、過屈曲でしょ(どや)
うん、そうだね。
では、過屈曲って何度から?
え、それは知らない…
一般的に術後の股関節屈曲は、100°前後で落ち着くと言われていますが、それだけを暗記しても意味がありません。
過屈曲の定義を理解しましょう。
四肢の過屈曲
【英】Limb Hyperflexion
肢が正常限度以上に屈曲している状態。
辞書には、正常限度以上と書かれていますが、「正常」の定義が曖昧で分かりにくい…。
たしか関節包内では、「滑り」や「転がり」などの副運動が行われているんでしたね。
うん、運動学で勉強したよ。
しかし、筋の異常緊張や、骨と骨の衝突により、運動が途中で止まることがあります。
関節の中を見てみましょう。
この状態で、関節運動は終了するはずです。
しかし、その状態で体重を掛けたり、セラピストが力任せに動かそうとすると、
その力を逃がすために、関節の中に隙間が生じてしまいます。この隙間が関節を不安定にするため、人工関節では良くないのです。
ということで、この現象が関節包内で起こる状態が、過屈曲ということになります。
でも、関節の中は見えないよ?
関節を動かした時の抵抗感や、
手に伝わる衝撃で判断するんだ。
このコツを掴むには経験が必要です。
だから学生は、実習で「触らせて下さい」と患者さんにお願いするんですよ。
でも、この知識がない人には、ハッキリ言って触らせたくないですよね。
私だったら断ります。
実習で患者さんをケガさせないためにも、股関節の構造や関節運動については、知識をたくさん入れておきましょう!
よし、たくさん勉強するぞ!
その調子で実習頑張ってね!
おわりに
我々の職業は、ちょっとした不注意で、患者さんを怪我させてしまう可能性があります。
患者さんも、自分も守るのは、やはり知識と経験だと思います。
リスク管理をした上で、患者さんに有意義なリハビリを提供できるよう、日々の勉強を怠らないようにしましょうね。
それでは、人工関節のリハビリが
上手くできますように!
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